~戯語感覚~

文学、思想、そしてあるいはその他諸々

《さまざまな箱男》   

小説『箱男』の発想は、作者の安部公房が実際に目撃した一人の実在の浮浪者に由来している。東京上野で行われた浮浪者取り締まりを見物に行った際、上半身がすっぽり入るくらいの段ボール箱を被っている浮浪者を見かけた。取り締まっている警察官たちは、その「箱入り浮浪者」の扱いに困惑して、余計なものを摘発してしまったと持て余し気味だったが、一方の保護され事情聴取されている箱男の方は、箱を脱ぐように指示されても頑として聞き入れず、泰然自若の態度で悠々と箱の中でパンをかじっていたのだという。その光景に衝撃を受けた安部がこの小説を構想したのである。だからこの小説より前に既に箱男は存在したのである!!

                                           f:id:kurikakio2016:20180204192755p:plain super boxman

 

《箱の製法》

材料

ダンボール空箱  一個

ビニール生地(半透明) 五十センチ角

ガムテープ(耐水性)約八メートル

針金 約二メートル

切り出し小刀(工具として)

(なお、街頭に出るための本格的身ごしらえには、他に使い古しのドンゴロス三枚、作業用ゴム長靴一足を用意すること)

            f:id:kurikakio2016:20180204151546j:plainドンゴロス

この詳細な箱製作レシピ。安部は自身で実際に箱を作ったそうだ。しかしとても外へ出て行く勇気が無くて、家の庭で箱をかぶって小一時間外を観察していたと言っている。

しかし!!しかしである!

箱を被って外に飛び出た猛者たちの記録がネット上にいくつか残っている!!

その勇気あるパートタイム箱男の例を見て、箱男への第一歩をイメージしてほしい!

 

① 《湯ざまし氏の場合》

記事は2011年だが、実行は2009年にされたようである。

      f:id:kurikakio2016:20180204152759p:plain

安部公房が目撃した上野の箱男も座っていたというのでこんな感じだったんだろう。

      f:id:kurikakio2016:20180204153046p:plain

     地下街をさまよう箱男。帰宅する会社員たちとの対比が秀逸!

         f:id:kurikakio2016:20180204153253p:plain ついに話しかけられる箱男

         f:id:kurikakio2016:20180204153428p:plain 箱男は電話ボックスに入れない(貴重な実験)

       f:id:kurikakio2016:20180204153856p:plain

    これが本来?の箱男の居場所か・・・なじむ、なじむ

 

元記事  『箱をかぶれば箱男

特集|箱をかぶれば箱男 ―湯ざまし  より引用させて頂きました。

 

② 《℃ Taro Tezuka 氏の場合》

これは2002年だから、もう16年も前になる。

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     京都の町になじむ?箱男

 

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     やっぱり職質される箱男

 

元記事 【体験報告】箱男 から引用させて頂きました。

http://yattemiyou.sakura.ne.jp/archive/hakootoko.html


         

 

③ 《なんでもやってみようの会の場合》

これは2007年、慶応義塾大学と早稲田大学の学生が共同創始したサークル『なんでもやってみようの会』の活動の一環。

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       電車に乗ろうとする箱男

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       実際に乗車してしまった箱男!シュールや!!

 

元記事  なんでもやってみたブログ より引用させて頂きました。

なんでもやってみたブログ:箱男 - livedoor Blog(ブログ) 

 

 

  さまざな箱男

箱男の被る箱のサイズも安部公房は記していて、横幅と奥行きは1メートルで高さが1.5メートルとなっている。おそらく上記①の湯ざまし氏の箱男がそれに一番近いと思われる。だから横から見ると割とごつく見える。

三氏の体験記を読んでいると、箱男の視界が異常に狭いということが記されている。この視野狭窄的状況は、「中の人」にとって物理的には不利に、しかし心理的に有利に働くようだ。不利なのは真下は箱の下から見えるが、チョットだけ前が見えにくくエスカレーターなど乗るときは転ばないよう注意が必要なのだ。心理的有利さは、周りの人の反応がほとんど見えないということで(加えて音も聞こえにくい)、羞恥心が和らげられるということだ。それは見られていないという事ではなく、見られていることが見えないということで、箱およびそこに穿たれた長方形の窓の効用だといえる。周りの人の反応は、安部公房が書いているように、《見て見ぬフリ》が最も多いそうだが、中には話しかける人もいる。業務上話しかけざるを得ない人(店員、駅員、警察官など)を除くと、話しかけるのはいっちょ噛みのやじ馬的おじさんと、世間の常識に冒されていない子供たちだ。かける言葉が意外で面白い。「なんかの宣伝?」「なんだカメラの人か…」なんのことやらわからないことを呟く人もいる(笑)

 

しかし、予想よりも容易にウロウロ徘徊できているのは意外だった。中には電車にまで乗ってる人もいる。ちょっと前の実験なので、コンプライアンスにうるさく、不審者に敏感な現在ならどうだろうか?箱男にとっても現在は生きにくくなっていることは間違いないだろう。社会のニッチがどんどん狭くなってきている。安全安心を優先する事と、ゆるく生きることがトレードオフの関係になっていて、前者に重きを置くとどんどん息苦しい世の中になっていく。監視社会は何も、国家だけの専売だけではない。自分も含めた、一般庶民の中にもその根を持っていることを忘れてはいけない。

 

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この箱男は薄っぺらい「ぬりかべ」タイプ。ちなみに中は岸部シロー

 

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       「頭部だけ」タイプ。しかも顔つき。

        こういうのは個人的にはあんまり好きではない。

 

 

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