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~戯語感覚~

文学、思想、そしてあるいはその他諸々

医学ドラマ『済衆院』観た ー①ー

感想

朝鮮初の西洋式病院かつ医学学校である『済衆院』(チェジュンウォン)とそこで研鑽する若い医師たちの物語。主人公は朝鮮の最下級の身分「白丁」出身のソグンゲ、ライバルに名門両班家のペク・ドヤン、ヒロインは中人階級で訳官の娘ユ・ソンナン。

 

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(左・黄丁、中・ソンナン、右・ドヤン 奥・アレン初代院長)

今回は物語そのものについていくつか気になったことを書いてみたい。

 

1.主人公ファン・ジョンの流転

朝鮮時代の身分制度下で最下層である《白丁・ペクチョン》階級出身の主人公ソグンゲ(痩せ犬と言う意味)。彼は結核に侵された母親の医療費を捻出するため禁じられていた密屠畜に手を出してしまう。その罪で捕まった彼は、ある人物に人体解剖をするように命じられる。それが後に永遠のライバルとなるペク・ドヤンであった。人体解剖後殺されるはずだったソグンゲは何とか逃げ延びたが、遂に追手の銃弾に倒れてしまう。

 

ここで奇跡が起こる。瀕死のソグンゲ(身なりは両班に化けてる)は、訳官の娘ソンナンに発見されて彼女の家へと運ばれる。そしてそこに偶然居合わした医師アレンの外科手術によって一命を取留めるのである。

 

命を救われたことをきっかけにソグンゲ(名前も両班になりすまして〈黄丁・ファンジョン〉と名乗る)は、医師、つまりは西洋医を志すようになる。

 

甲申政変時に最初に斬られた閔泳翊を治療したのもアレンだった。その功績もあって高宗は朝鮮初の西洋式病院《済衆院》開設を許可する。病院には学校も併設され、黄丁、ドヤン、ソンナンも医学生として学ぶことになる。

 

学ぶ過程でいろんな出来事・事件が起こるのだが、主人公の黄丁は誠実に、ただ人の命が救いたいからという一途な思いでどんな困難も突破していく。途中「白丁」であることがばれて済衆院から追い出されたり、治療した両班の古風な考えの娘が医療行為を「結婚前に男に蹂躙された」と誤解して自殺し、その罪を背負わされて死刑執行の直前まで行ってしまう。日本への対抗策としてロシアと関係強化しようとしていた高宗の意向で、ロシア公使の眼の手術を成功させることを条件に死刑を免れ、更に白丁から免賎され平民となり「黄正」(発音は同じくファンジョン)という名前まで賜ってしまう!!

 

この頃から以前の庶民の命と健康をただひたすらに求めるという「黄丁」らしさが消えてしまう。済衆院での診療はそっちのけで王宮で高宗の相手をすることに時間の大半が費やされるようになってしまう。いつも黄丁のよき理解者であったソンナンでさえも異議を申し立てるようになる・・・

 

物語全体の前半3分の2と後半3分の1では、ファンジョンのキャラが変化してる。丁度それは「黄丁」から「黄正」に変わる頃である。《一般庶民の味方・黄丁》から《王の側近・黄正》へと性質を一変させてしまうのだ!この事と対になるかのように、かつては傲慢不遜であったペクドヤンがその両班体質を捨てて人間味を醸し出すようになってくる。後半ではドヤンの方が《黄丁》性を帯びてくる。だからこのドラマは、ソグンゲの成長を描くと共に、ぺクドヤンの成長も同時に描くという構成になっている。

 

更に違和感が募るのは、黄正が抗日義勇軍の隊長に就任するというところである。別に自分が日本人だから日本を悪し様に描写してて違和感があると言っているわけではない。武器を取って殺人に手を染めるなどとは最もファン・ジョンの性質からかけ離れていると言うべきだろう(ドラマでも父親マダンゲをなぶり殺した兵曹判書を手術中に殺そうとして殺さなかったように)。義勇軍の件はファン・ジョンのモデルとなった「朴瑞陽」という実在の人物が抗日運動していたからドラマでもそうしたのであろうが、何かそれまでのファン・ジョンという人物造形からは導かれない行動であると感じられた。

 

2.日本人の描写について

それから気になったのがドラマに登場する日本人の演出だ。意図的なのか知らないがとても漫画的に描かれている。医師渡辺、看護婦鈴木の「そうです!クロッスムニダ!」なんて、ほとんどギャグみたいになってしまっている。また日本兵もあたかもロボット兵のごとく描かれていて、周りの朝鮮人たち、当時の朝鮮社会のきめ細やかな描写とマッチしてない感じがする。例えるなら、ハイパーリアリズムで描かれた絵の中に蛭子能収のイラストが混じってるような感じがするのだ。ペクドヤンの恋人ナオコだけが辛うじて陰影のある人物として描かれているといえよう。ほかの人物も内面に立ち入って描き込めばもっと深く広がりのある物語になったと思う。

 

3.好きなシーン

いろいろ批判してきたからこのドラマが嫌いかといえば、それは全く違う。

むしろかなり気に入っている。その中でも好きなシーンを紹介したい。

このドラマの一番の見どころは何と言ってもファンジョンが「白丁」であることをばらしてしまうシーンだと思う。足の治療に済衆院に来ていた父マダンゲが手術を拒否して帰ろうとして転倒した時、ファンジョンが杜子春よろしく「アボジ!」と言って駆け寄るシーン。この破戒のシーンが一番インパクトあると思うが、私的にはその前のシーンの方が好きである。

それは、ソンナンが腕に深い傷を負い、大量失血で意識を失った後、ファンジョンの血を輸血し、夜二人きりになった時に、意識の戻らないソンナンの手を握りながらファンジョンが語りかけるシーンである。

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「私の汚れた卑しい血が、お嬢様まで汚してしまったようで、心配で水も飲めません。息をすることもできません。どうか早く目を覚まして、いつものように生き生きと飛び回って下さい。以前貸していただいた本には教えていただきたいことが山ほどあるし、もう軟膏も無くなってしまいました。お嬢様がいなければ済衆院はたちいきません。白丁だったソグンゲが医学生になれたのも、お嬢様がいたからです。」

静かな、とても静かなシーンですが、一番感動させられました。

実はこの告白を、ソンナンは目覚めていて、聞いていたのだ!!

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本当のこと》を知ったソンナン。

しかし彼女はファンジョンを、以前と変わらず愛し続ける。

 

あと何故だか気に入っているシーンとしては、自転車でソンナンが意味なく(意味ありげに?)ファンジョンの周りをぐるぐる回るシーンも好きです。

なんか、いいです(笑)。

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               では、次回につづく。