ドラマ『朝鮮ガンマン』観た。~パクユンガンの夢~③
実行犯だったウォンシンを倒したユンガンは、残った仇の一方である黒幕キムジャヨンを内偵する。
するとクーデターを企んでいることが判明した。その証拠を押さえるためにユンガンはキムジャヨンの屋敷に潜入し、とうとう謀反の揺るがぬ証拠である〈スホゲ〉(守護契)の連判状を手に入れる。それを彼は王高宗の元へ届ける。王はこれで開化を妨げてきた守旧勢力を一掃し、そして念願だったユンガンの父・忠臣パクジナンの名誉を回復できると喜んだ。
喜んだのも束の間、〈スホゲ〉一党を捕縛せよと命じた時すでにクーデターは始まっていたのである。これが《壬午軍乱》である。史実においてこの軍乱は、大院君が開化派と閔氏一派の追い落としを狙ったものであるとされているが、本ドラマではむしろ守旧勢力が自らの悪事が発覚することを怖れ、また開化に向かう高宗を譲位させるのが目的のように描かれている。それにドラマでは当時の主役であるはずの大院君はほんの一シーンに登場するだけであり、閔氏も中立に描かれている。
結局、クーデター《壬午軍乱》は清国の軍が進駐することによって鎮圧される。〈スホゲ〉一派は捕らえられ、裁判にかけられ全員斬首刑にされる。そしてユンガンの父ジナンの名誉も回復される。全てが、終わったのである。
ここで終わればめでたしめでたしであるが、そうはいかない!決していかないのである!!
クーデターを経験した高宗は、人が変わったように開化への情熱を失い王権の強化へとひた走るようになる。
ユンガンが王に呼び出される。彼は王に感謝の言葉を述べる。が、高宗はユンガンにとんでもないことを提案する。もう一人の人物が王の部屋へ呼び入れられる。その人物は、な、なんと死んだはずのチェ・ウォンシンだったのだ。唖然としたユンガンに高宗は追い打ちをかけるように、王権を安定させるためにウォンシンと手を組んだことを伝え、ユンガンも協力し以後お互いの命を狙わないようにせよと命じた。しかしユンガンは納得できない。王を罵倒し、その場から出て行ってしまう。この件でユンガンは完全に高宗を見限る。
斬首刑を言い渡された〈スホゲ〉一派の一員に、閔妃の命を軍乱時に守ったという手柄で刑を免れた者がいた。彼等は、今度は閔氏と手を組み新たな勢道政治を始める。王と手を組んだウォンシンは朝鮮全国の商業を統括する恵商公局を設立し、商業利益を手中に収める。日本人商人「山元」とともに穀物を買い占め、不当な利益を得る。その利益は閔妃をはじめ閔氏一族へもわたる。一部の商人と官僚だけが潤っている一方で、朝鮮の庶民たちは食べることさえままならない状態に陥っている。
見かねたユンガンは、「満月の黒砲手」となって、京幾褓商団の蔵を襲い、飢えた朝鮮庶民たちにコメを開放する。これに激怒した日本人商人「山元」は、ユンガンを殺そうとするが、ここで同じ日本人の「金丸」が、かつて京都でユンガンからうけた恩を返すとして、ボスの山元を裏切ってユンガンの命を救う。しかし、この時ユンガンは大きな間違いを犯してしまった。日本人を殺してしまったのだ。
この事件は外交問題に発展してしまう。せっかく名誉回復され自由の身になったユンガンが、今度は日本人殺害の犯人として追われることになる。
再びウォンシンがユンガンを追い始める。追い詰められたユンガンが山中で脳震盪を起こして危機一髪のところ、朴泳孝の軍に助けられる。そこでユンガンは、開化派によるクーデターの計画を打ち明けられる。飢えに苦しむ庶民たち、虫けらのように扱われる奴婢、無実の人間が罪を負わされる世の中に大きな疑問を抱いていたユンガンはその計画に参加することを決心する。復讐から《新しい世界》をつくるという目的に方向を転換するユンガン。
その頃、ユンガンの恋人スインも女官になって閔氏の動きを探ってくれと金玉均に誘われる。スインの父は訳官で開化を進めていた人物であったが、壬午軍乱で反乱軍に殺されていた。父の遺志を継ぎたいと言う思いと、何より再び追われる身となったユンガンを守るために、彼女は女官になることを決意する。
スインが女官になることを知ったユンガンは、止めようとするが彼女の意志は堅かった。翻意を迫るユンガンと、それを拒んで自らの意志を貫くスインの会話のシーンはこのドラマの白眉であると思う。涙でスインを見送るユンガンはなぜ彼女が女官になるのかをその時点では理解できないでいた。
ユンガンはスインを危険に巻き込んだ金玉均のもとへ抗議に訪れる。
「なぜ彼女を、よりにもよって女官など? 言ったはずです 私にとって命より大切な人なんです 唯一の望みなんです なのになぜ このようなことを・・・私からスイン殿を奪った たった一つの希望を奪った・・・」
「すまない・・・ 本人が望んだのだ そなたを守るために そなたのために 世を変えたいと言っていた 追われる者のない世にしたいと 彼女は自身のすべてを懸けたのだ そなたを自由にするために 自ら犠牲になった 取り戻す方法は1つしかない 事を成就することだ 2人のための唯一の道だ 同時に我ら皆のためでもある!」
スインの本当の心を知ったユンガンは、開化派の軍事の指導者を引き受ける。しかし
彼はクーデターに日本の援軍を頼むという金玉均の提案に強く反対する。
「日本を頼ってはいけません 絶対に我らの力でやり遂げるべきです 他国を頼れば 主導権を握られかねない 軍乱後の清を見ればおわかりでしょう 朝鮮の民の力を頼るべきです 民の協力あってこそ事は成功します」
「そのとおりだな だが今の民にそのような余裕はない 1食分の食料を手に入れるだけで精一杯だ 今は志あるものだけで動くしかない・・・」
じっさいの歴史にもユンガンのように考える人物がいれば、その後の朝鮮の歴史も変わったかもしれない、と思わざるを得ないが、歴史に「たら・れば」は禁物だ。史実はそうならなかったとを示している。
開化派の不穏な動きを察したウォンシンは、朴泳孝を外務に当たらせ、彼の軍を王宮警護に回させることを提案し、王もそれを認める。猶予が無くなった開化派は事を急ぐ。そしてついに「甲申政変」が始まる。王と王妃を狭い宮に移動させ、閔氏一派との連絡を絶たせて、王に改革の14条の政綱と新内閣の人事を認めさせたまでは良かったが、ドラマでは日本軍が突然「自分たちが責任を持つ」といって王と王妃を広い王宮へと移動させてしまった。そのタイミングで閔妃は清に援軍を頼む密書を渡すことに成功、要請によって清軍が来襲、責任を持つといった日本軍はあっさり撤退してしまう。はしごを外された開化派は、後退を続けついにクーデター失敗を悟って日本へと逃げることになる。
甲申政変はどのような意味をもっているのだろうか?それは単なる日本の朝鮮侵略の片棒を担いだだけの反乱だったのだろうか?私はそうは思わない。朝鮮で少なくとも1000年以上続いた奴隷制度を、形式的にだけにせよ、終わらせたのは他ならぬこの政変であった。1000年の長きにわたって誰もなしえなかったことをやり遂げたという意味で不朽の価値があると思えるがどうだろうか?またこの事件とその後の朝鮮に残された開化派の人々に対する無惨な弾圧は、日本に激しい怒りとナショナリズムを引き起こした。もっとも激しかったのは《時事新報》でその主筆はもちろん福沢諭吉である。その新報と福沢は日清戦争開戦を最も煽る言論を発表し続けることになるのだ。
甲申政変(1884年)で発表された14か条の政綱
1.大院君を早急に帰国させ、清国に対する朝貢虚礼を廃止すること
2.門閥を廃止し、人民平等の権を制定して、才能によって官吏を登用し、官職によって人を選ばないようにすること
3.全国の地租法を改革し、奸吏を根絶し、窮民を救済し、国家財政を充実させること
4.内侍府[王室財政を担当する官庁]を廃止し、そのなかで才能ある者だけを登用すること
5.前後の時期に不正をし、国家に毒害を及ぼした人のなかで、その罪が顕著な者は処罰すること
6.各道の還上米[国家が利子をつけて農民に貸す米]は、永久に回収しないこと
7.奎章閣[王室の図書館]を廃止すること
8.早急に巡査を置き、盗賊を防ぐこと
9.恵商公局[行商人の監督官庁]を廃止すること
10.前後の時期に流配または禁固された罪人を、再調査して釈放すること
11.四営[軍]を合わせて一営とし、営中から壮丁を選んで直ちに近衛隊を設けること。陸軍大将は王世子を任ずる
12.すべての国内財政は戸曹で管轄し、その他いっさいの財務官庁を廃止すること
13.大臣と参賛は日を定めて閤門内の議政府[内閣]で会議をおこない、政令を議定、執行すること
14.政府六曹のほか、すべて不要な官庁は廃止し、大臣と参賛をして審議処理させること
ー続くー