~戯語感覚~

文学、思想、そしてあるいはその他諸々

柄谷行人『世界史の構造』を読んだ ー(12・結)

 まとめと感想

 

 「世界史の構造」について書き始めたのが、4月の中頃。

8月ギリギリの前回でやっと終わって約4ヶ月・・・

最初のほうはもう忘れかけてる・・・・・ ので、ここで他のことは忘れてもこのことは忘れないでください!という論点を、備忘録として記しておくことにします。

 

①:国家と資本を一体としてとらえなければならない!!

 これは言い換えると、政治と経済を同時に視野に入れて思考せよ、ということです。伝統的マルクス主義者は、国家を軽く見ていた、それを経済の従属物のように捉えていた。ゆえに社会主義国家はナショナリズムの陥穽に捕まることになった。この事と関連して、

②:生産過程ではなく流通過程で闘え!!

 これもまた、マルクス主義者の失敗の反省から導かれた結論である。従来の労働者の資本との闘争が、生産過程すなわち労働組合運動に偏っていたことへの反省。むしろ流通過程、消費者=生産者協同組合で闘え、という示唆。労働は強制できても、消費は強制できない。

③:国は内側から見れば、「政府」に見えるが、外部から見れば「国家」に見える

 市民革命後の国民国家は内側から見れば、個々人の社会契約によって作られた「政府」のように見える。しかし、その政府も外部から見れば、侵略もするし、戦争もする立派な「国家」なのである。ゆえにボトムアップ式のゆるやかな民主主義を唱える者は、国を単純に内側からしか見ていない。外から見ればそれは何をするのか分からない危険な存在者なのだ。この外側から見るということは、世界共和国の実現にとっても大事な視点である!

④:「自由」と「平等」なら、「自由」を優先せよ!!

 平等を優先すると、再分配機能を高めなければならなくなり、そのことは必然的に国家を強化してしまう。また優先される「自由」は、己だけのものであってはならない。自分が自由であることが、他者を手段とすることで達成されてはならない。自由は相互性(互酬性)を持たなければならない。

⑤:株式会社を協同組合化せよ!!

 これは、チョー具体的な提案である。協同組合は産業資本制の競争下では生き残れない事を見越した提案。流通過程での闘いの一環ともいえる。

⑥:世界政府ではなく諸国家連邦を!!

 世界政府とは、結局覇権国家のことである。覇権国家の軍事力の下での平和は、永遠平和とは言えない。

⑦:国連の改革と各国での対抗運動を同時並行せよ!!

 国連トランスナショナルな部分を、軍事、経済の部分に拡大させること、それと共に各国内部で、協同組合、地域通貨などの非資本主義的な経済圏を創ること。この2つが揃わなければ、世界共和国、諸国家連邦は実現できない。

 

 まあ、他にもいろいろあると思うが、とりあえず私が大事だと思った論点を列挙してみた。

 

 この本を読みながらいろいろ考えさせられた。

政府と国家の区別はなるほどと思った。我々は「政府」を批判したり、政権交代させることもできるので、それを何か「自分たちのもの」という感覚で接している。いや、そういう感覚すらないかもしれない。しかし、外国との諍いが起こったらどうだろう?例えば尖閣諸島で中国との間に、いざこざが発生したら?我々はその時、自分たちの政府が「国家」として立ち現われるのを目の当たりにするだろう。「国家」はもはや国民の意志とは乖離した、独立した存在者となっている。それは相手も同じことである。国家は国家と対峙する。そのとき、ナショナリズムの何たるかを知ることになる。

 それから、読みながら、坂口恭平が同じことを書いてたなと思っていた。『独立国家の作り方』で彼は「態度経済」について次のように述べている「そうやって経済について考えて行った結果、見えてきたのは、経済自体にもレイヤーが存在することである。そして、今、僕たちが信じこんでしまっている貨幣経済というものは、それらの経済の一つにすぎないということだ。…」(P103) ここで坂口がいうレイヤー(層)は、柄谷の交換様式A,B、C、Dのことに近い。各交換様式は、同時並行的に存在する。ただそのなかのどの様式が支配的になっているかでその時代が特徴づけられる。現在は、坂口が言うように貨幣経済が、つまり交換様式Cがドミナントになっているのだ。しかし、同時に交換様式AもBも存在してるのである。かれが唱える「態度経済」は、交換様式Aではないか?それを現在の資本制下で復活させようとするならば、ひょっとすると交換様式Dかもしれない。彼がヒントを得た、ホームレスとは、いったん共同体から離れた人々であるから、ますます交換様式Dの条件に合致してくる。

 現在の経済体制の下にも複数の経済が共存している、それは間違いない。ヒントはいくらでもあるだろう、シルビオ・ゲゼルの「自由貨幣」、ノイラートの「実物経済」、地域通貨LETS」「Q」、自主管理労組、参与型経済などなど、勿論、Bライフもその中に入れられるべき可能性の一つにはちがいない。