読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

~戯語感覚~

文学、思想、そしてあるいはその他諸々

柄谷行人『世界史の構造』を読んだ ー(3)

 予定では2部、3部で一回づつ書くつもりでしたが内容が転倒に次ぐ転倒(ただ自分が何も知らないだけかもしれない)で、その「転倒」に躓かないようにゆっくり書くことにしました。

 

 ① 国家の起源 

 

 交換様式Aが支配的な氏族社会では、互酬による強力な平等主義によって、王や国家のような超越的な存在は抑制されていた。ならば国家はどのように誕生したのか?

 前回も紹介したように柄谷は新石器革命(農業革命ともいう)を否定し、定住革命を採った。定住の後に農業が始められたのだとした。ではその農業は何処で始まったのか?旧来それは当然農村で開始されたと思われてきたが、ここでも従来の見方を転倒させ、柄谷は(ジェーン・ジェイコブズにならって)都市で農業は始まったという。都市には人と知識と技術が集まるからだ。近代の産業革命が、国家の重商主義的な指針で主導されたように、古代の農業もまた国家の主導でなされた。つまり農業が開始された都市とは、原・国家なのである。古代の大規模な灌漑農業は、国家のような組織を抜きには考えられない。国家が形成されたのち農業が開始された、逆ではない。ここでいう農業とは、単に作物を大量に得る技術のことだけではない。むしろ、自然を支配するよりも人を組織し、支配するテクノロジーのことなのだ。

 人間を支配するテクノロジーとは、具体的に言えば「官僚制」「宗教」のことである。官僚制は、王と臣下の互酬性が否定された時に成立する。「官僚制は、人間を人格的な関係あるいは互酬的な関係から解放する。」(p90) また支配される人々が強制的に使役されているのではなく、あたかも自発的な労働であるかのように思わせるように、宗教が利用されるという。そもそも狩猟採集社会の人間は短時間しか労働しない。そのような人間に長時間労働させるにはディシプリンが必要になる。それを担うのがアニミズムではない「宗教」なのであるである。外面的には官僚制が、内面的には宗教が人をコントロールするのである。(このほかに「法」や「思想」も動員される。)

 

 

 ② 互酬から支配・再分配へ 

     交換様式Aから交換様式Bへ

 

 氏族社会では交換様式Aが支配的であった、では国家が誕生したとき交換様式はどのように変化するのか?

 柄谷は、国家は都市として始まると言った。いわゆる都市国家というものである。ティグリス=ユーフラテス河沿いに繁栄した古代シュメールの都市国家を思い浮かべればいい。都市国家間にも交易があり、戦争がある。しかしそれらはもはや氏族社会のような互酬性に回収されないものを持つようになる。

 都市国家は絶えざる戦争の危機にみまわれる。それはホッブスが想定した自然状態「万人の万人に対する闘争」に似ていると柄谷はいう。ホッブスの自然状態は個人間を想定したものであったが、それと類似なものが共同体間に対しても成り立つと考える。つまり、個々人の持つ自然権をただ一人の主権者に委ね契約をかわすように、個々の都市国家が一つの都市国家に支配を委ねるようになると。勿論それは「恐怖に強要された契約」である。ホッブスは恐怖によって強要された契約も有効であるとみなした。ここで柄谷は「契約」とは「交換」であるとする。つまり、服従を与えるかわりに生命・安全を得るという交換関係をホッブスは見つけたのだと。都市国家間の〈契約〉によって広域国家が出来れば、あとは略奪ではなく納税という形で継続的に略奪できるようになる。また征服者は、略奪だけでなくそれを大規模な灌漑や神殿建築などの公共事業によって、再分配するようになる。

 

 

③ アジア的専制国家

 

 エジプトやアッシリアなどの古代の専制国家は、ギリシャ都市国家ローマ帝国に比べて原始的だと見做されてきたがこれも間違っていると柄谷は指摘する。ギリシャ・ローマには市民の間に互酬原理が強く残存しており、集権的な官僚制度をを作ることができなかった。ローマが帝国に成れたのは、アジア的専制国家のシステムを模倣したからであるとしている。

 アジアの専制国家は、支配者が中間者たる貴族たちを制圧し、自ら祭祀をつかさどった。つまり互酬関係を断ち切って新たな交換関係をスタートさせたのである。これはヨーロッパでは絶対主義体制が確立するまではなされなかったことなである。

 

 まとめ 

 

1:国家は都市として誕生した。そこでは人を支配するテクノロジーが生まれた。

2:諸都市国家は、一種の社会契約(という交換関係)を経て広域国家を形成した。

3:アジア的専制国家は、支配の原始的な形態でなくすでに完成された形態である。

 

         次回につづく